ヒューム「原始契約について」

「族長がすすんで権威を行使したのは異例の場合であり、しかもよほど事態がさし迫った場合に限られていたに違いない。けれども、族長の介入に利点のあることが気づかれるにつれて、このような権威の行使は日ましに頻繁になっていったに違いない。そして、この頻繁さから、やがて人民の側にある習慣的な黙諾が──もしお望みとあれば、人民の自由な意志によると言ってもよい、したがってまた人民の都合次第のと言ってもよい、あの黙諾が──生まれたのである。」(ヒューム「原始契約について」小西嘉四郎訳、中央公論社 中公バックス 世界の名著『ロック ヒューム』責任編集・大槻春彦、p.538.)

「逆に、われわれはいたるところで、臣民は自分の財産であると主張し、また、君権は征服や継承に由来するもので、臣民には依存しないとする君主たちに出会うのである。しかも、彼らの臣民もまた、君主のこのような権利を承認しているのを見いだす。」(ヒューム「原始契約について」小西嘉四郎訳、中央公論社 中公バックス 世界の名著『ロック ヒューム』責任編集・大槻春彦、p.539.)

「もしもあなたが、政治上の人間関係はすべて自発的な同意、ないしはある種の相互契約に基づいていると説こうものなら、世界中のほとんどのところで、為政者はすぐさまあなたを扇動的だとし、服従義務を危くする者だとして投獄するだろう。もっとも、あなたの友人たちが、そんな馬鹿げたことをしでかさないように、あらかじめあなたを精神錯乱として監禁してくれるなら話は別だが。」(ヒューム「原始契約について」小西嘉四郎訳、中央公論社 中公バックス 世界の名著『ロック ヒューム』責任編集・大槻春彦、p.540.)

「現に存在している、あるいは歴史のうちになんらかの記録をとどめている政府は、そのほとんど全部が、権力の奪取かそれとも征服に、あるいはその両方に起原を持っており、人民の公正な同意とか自発的な服従とかを口実にしたものはない。」(ヒューム「原始契約について」小西嘉四郎訳、中央公論社 中公バックス 世界の名著『ロック ヒューム』責任編集・大槻春彦、p.541.)

「最初の政府は暴力によって樹立され、人民は、必要上それに従った。そして、その後の統治も力によって維持され、人民によって黙認される。それは人民にとって選択の余地のあることではなくて、どうしようもないことである。」(ヒューム「原始契約について」小西嘉四郎訳、中央公論社 中公バックス 世界の名著『ロック ヒューム』責任編集・大槻春彦、p.545.)

古代文明諸国民の間では、反逆の罪は、新奇なことを企てるという、共通の言葉で表現されていた。」(ヒューム「原始契約について」小西嘉四郎訳、中央公論社 中公バックス 世界の名著『ロック ヒューム』責任編集・大槻春彦、p.558.)