近況アップデート

橋本治が描いたのは70年代か80年代の日本です。当時は豊かになっていたでしょうが、まだインターネットなどはありませんでした。『桃尻娘』連作にしてもそのような状況で若い人がどのように生きてきたかというような話です。それが発表された当時、よく橋本治の文体が好意的に話題にされました。橋本治は当時の若い人の話し言葉を小説の文章に持ち込んだのです。その頃にはそのような書き方は斬新だったのです。ところで、現在、今日から読みますと、文体が新しいかどうかということよりも、20世紀の後半、ほとんど終わり頃の日本の歴史的、社会的な状況の雰囲気を伝えるものとして意味があると思います。文芸作品や小説としての出来不出来というよりも、時代の雰囲気をよく伝えているという意味で価値があるというような作品があると思います。大江健三郎が後に自己否定した『われらの時代』『遅れてきた青年』『日常生活の冒険』がそうです。橋本治もそうだと思います。バブル崩壊以降、またゼロ年代のもろもろの社会的な出来事以降、日本はすっかり変わってしまいました。今では逆にその変化以前どうであったかというようなことを想像、実感することのほうが困難だと思います。