ローレンス

D.H.ローレンスはその短編『てんとう虫』において、第一次世界大戦がヨーロッパに残した深い傷跡を抉っている。この短編において、重要なのは、白/黒という対である。前者は崩壊した「古き良きヨーロッパ」の人間であり、死、滅亡の側にいる。主人公の夫は、戦闘で顔に酷い傷を負って帰ってくる。主人公(女性)を魅きつけるのは、異郷からやってきた浅黒い男のほうであり、彼は生命の側にいる。

哲学者のバートランド・ラッセルは、ローレンスを、ファシズム親和的だと非難した。そのようなレッテル貼りを重視すべきではないが、我々はこのファシズムというのを積極的な意義を持ち得るものとして考察する必要がある。ラッセルがローレンスに見たファシズム的なものとは、哲学的にいえば、「生の哲学」のようなものであり、ラッセルは哲学的にもニーチェベルクソンに敵対したのである。

しかるに第二次世界大戦とは、そのような「生の哲学」的なもの=ファシズムが決定的に敗北した契機としてある。ドゥルーズ第二次世界大戦を重視するのは、一般に「生の哲学」と呼ばれているもの、通俗的に理解されたニーチェベルクソンの思想の無効性を暗黙に意味している。