プレカリアート芸術

プレカリアート芸術、と口に出して言ってみる。そうした現象は、存在しているのだろうか。またそれは、プロレタリア芸術なり労働者の芸術なりと呼ばれたものと、どこが異なっているのだろう。

プレカリアート芸術のはしりとして、パゾリーニの『アッカトーネ(乞食)』を想定してみる。この映画では、主人公は、労働のエートスを身につけることも、犯罪者になりおおせることすらもできない。一切の試みに失敗して、彼は交通事故で死ぬ。

こうした或る種の無為、無能力の顕揚として、充溢した「力」の誇示としてのプロレタリア芸術と異なったものとしてのプレカリアート芸術の特徴を把握してみたい。

アッカトーネ [DVD]

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それは音楽としては、チャーリー・パーカーバド・パウエルビバップに表象される(のかもしれない)。彼らは新しい乞食芸人であり、全く新たなタイプの音楽家像を創出した。

チャーリー・パーカーの芸術

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文学としてはそれは、不安定で差異を孕んだ特異な表現に見られる。例えば、

泥棒日記 (新潮文庫)

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南回帰線 (講談社文芸文庫)

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路上 (河出文庫 505A)

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ジャンキー (Serie fantastique)

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猛者(ワイルド・ボーイズ)―死者の書

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