通俗の論理

佐野眞一が『週刊朝日』誌に掲載した『ハシシタ:奴の本性』が賛否や毀誉褒貶の対象になり、橋下徹が抗議し、『週刊朝日』誌は謝罪し連載打ち切りを決めた。私は『ハシシタ』そのものは未読だが、現在得られている情報だけから判断しても、それには疑問である。橋下徹は自ら自分と部落の関係については語っていたそうだが、それとは別に、彼自身と関係があると思えない父親や祖父母のことまで詮索する姿勢のどこが根源的な批判なのか、と思わざるを得ない。

佐野眞一といえば、『東電OL殺人事件』、『東電OL症候群』を想起する。最近、ゴビンダさんの無罪がほぼ確定的になったばかりだから、なおさらそのことが想い出されるが、その事件について、「東電OL」という在り方を問題にする姿勢には疑問であろう。佐野のようなタイプの作家そのものに疑問を持たざるを得ないが、面白ければいいのか、ということである。

佐野は、『東電OL殺人事件』で、自分の目的はプライヴァシー暴露ではない、被害者の女性の霊を鎮めることだ、そのためにはいわゆる「人権派」が報道を黙らせたことはよくなかった、という。だが、その彼の取材申し入れに遺族は応じなかったそうだ。彼は別に、被害者の女性を非難しているというわけではない。だが、率直に申し上げて、どうして、そんな謎だの闇が問題なのか、さっぱり理解できない、というところである。どうでもいいのではないのか。そういうふうにいうことは、ノンフィクションそのものの存在意義の否定だろうが、私にはそういうものは無価値である。

東電OL殺人事件 (新潮文庫)

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東電OL症候群(シンドローム) (新潮文庫)

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