短歌と俳句

またたびの猫のまにまに鳴くものも夏の日差しに汗を掻きつつ
真夏には陽炎さえも目に見えず
兵(つはもの)が眠りの後に啜るお茶
軍票が紙屑になる真夏の日
欲張りな金持ちさえも目が醒めてダイアモンドもただの石ころ
夏の夜の地獄に堕ちた勇者ども
バロウズの猛者連中も緑から赤になるやうな信号機
夢に見るペヨトルさえも何処へか消えて行くやうな夏祭り
缶詰のなかに詰まった人間を暴力団が海に沈める
やくざもの指を詰めてもそのうちに詰める指さえなくなるものか
植木屋がバルタン星人と呼ぶものは指を詰めていく暴力団
雨が降り被曝しそうな梅雨どきも今は終わって気温が上がる
子規居士の糸瓜の水も枯れ果てて後に遺るは呟きばかり
イギリスのミルが著す『自由論』『自由之理』などと訳されてもいた
明治期の先人達の考えは勁く素朴で世の中を見る
キーンから日本の心を教われど何処か沢山間違いがある
ドナルドが鬼の居ぬ間に影法師消え去る姿胸に留めん
夢からも想い出さえも消えて行き何もなくても紅茶を啜る
人の死に幾ら慣れても逝く人は幾らも尽きず砂粒のよう
殺戮の死体の山の向こうには心などない真っ赤な太陽
被爆者が水を求めて死に絶えるあの広島の真夏の日差し
中原が差し出す骨もそのうちに崩れていけば何も残らず
故郷を遠くにありて想へども今はもう亡き別府の人々
萩原の歌う青竹眺めても土のなかから何も萌え出ず
近代の七五で歌う『若菜集』前髪上げぬ乙女懐かし
藤村の歌う椰子の実流れ着く南の島は何処にあるか
高村が妻を歌った『智恵子抄』「狂つた智恵子は口をきかない」
高村の父親が住む根付には前近代の人々が棲む
光雲の子供の名前が光太郎彫刻家にも詩人にもなり
我々の未来のほうに道がある『道程』の世は遠くなりけり
ベンヤミンの天使の顔は振り返り遠い昔を覗き込みつつ
静寂が包み込んでいる墓場には永遠平和の看板だけある
人々の死体を乗り越え行く先は北はシベリア南はジャワよ
裕仁が統べる時代をあちこちとさすらっている老人の群れ
皇室が続く限りは日本は神の国なら人は住めない
赤旗』を読む気すらなく打ち棄てて日々の報せを遠い眼で見る
戦中の主婦がしていたコスプレを今の人らはいかに感じる
大正の甘粕大尉のその先に綿々とする権力者の群れ
モボ・モガも忘れ去られた戦後には太陽族もヨットに乗れず
裕ちゃんの自分は兄だと挨拶す慎太郎なら元気に都知事
都会には空がないのという妻を高村はいう狂気したのだと
戦後なら『史乃命』隆彦の歌は愛の炸裂
志郎康の詩の人々は爪剥ぎを趣味にしていて毎日剥がす
長崎の鐘が鳴れども基督は沈黙していて手を差し伸べず
空襲で全部焼かれた東京のあちらこちらに炭化した人
骨までも焼き尽くされた体には想い出さえも何も遺らず
世界史の隙間に落ちた人々は忘れ去られてそのまま果てる
疎開して芋の茎さえ喰う人も生き延びたなら贅沢をする
エレキテルを平賀源内作っても牢屋のなかで虚しく果てる
長英が蛮社の獄に遭遇す江戸の日本も世相は暗し
鎌倉の将軍の血も絶え果てて執権だけが力を残す
尊氏は逆賊なりといわれても歴史秩序は微動だにせず
室町の京都の街が戦乱で荒れ果ててみて勝者などなし
足利のくじ引き将軍義教は延暦寺など僧侶を殺す
黒色の青年団の事件すら忘れ去られた現代の朝
歴史家の嘆きも知らぬ母親の乳の流れに生命の海
君の死を承知しているわれらさえ時の流れの意味を掴めず
非情なる時の流れのその果てに砂に描かれた人間の顔
表情は意味を読み取る暇さえまるでなきまま闇夜に消える
古代史の底に漂う闇夜にて皇子達こそ葬られていく
万葉の素朴な歌の後ろには有間皇子大津皇子
実朝の遊ぶ蹴鞠の向こうには既に知られた彼の行く末
尼将軍北条政子は息子らを皆滅ぼして後悔もなし
実朝は宋に憧れ仏教を学びたくても願い叶わず
頼家は乱暴者で北条に刺客送られ浴場に死す
元寇をなんとか凌いだ幕府さえ滅びのさだめに変化などなし
フビライの使者どもを斬る執権の北条時宗後世いかに
九州の護りのために鎌倉の幕府は遂に倒れてしまう
平安の京の都の人々はまじないのため外も歩けず
大仏を建立しても疫病は収まる気配も毛ほどにもなし
毛沢東文化革命してみても紅衛兵もやがて歳取る
下放」などしてみたところでどうなるかアジアの果ての明けない闇夜
文革の嵐の後に現代の訒小平の改革路線
ポル・ポトマラルメ好きは困りもの自己否定もほどほどにせよ
農本の社稷の夢もそのままに減反ばかりをしてきた後世
橘が首都大停電を夢想して不発に終わる五月十五日
話しても分かって貰えぬそのことに気付かぬままに死んだ犬養
日召の血盟団の青年は恋心にも似た暗殺心理
民衆が戦を望む昭和初期娘を売って糊口を凌ぐ
「一殺」を掲げてみても権力を滅ぼすことができるはずなし
橘が夢を見ていた田園の平和な眺めにテロは似合わず #tanka
橘が経営していた「兄弟村」実篤に似た美しき村
田園に理想郷を見る橘のベルクソニズムをいかに思わん
竜一の『闇夜の思想』を思いみて蝋燭一つ灯してもみる
蝋燭の焔に映る面影は幽かに揺れてやがて消え去る
重信の父が夢見た中国の悠久の時に天が革るか
中東に思いを掛けて自らは焼け死に果てた日本の左翼
檜森らの遺志を受け継ぐmkimpoの忍者ブログに無数の足跡
市ヶ谷で献花を続けるmkimpoの仲間達の表情を見る
中東のインティファーダーのその後に警官になる無数の子
ジュネが見た虐殺の痕凄まじく歴史を証すは彼ただ独り
ジュネの書く『恋する虜』のそのなかでいきなり変わる家の風景
ジュネが書くパパン姉妹の犯罪は理解されないフランスの闇
『女中たち』『屏風』『バルコン』そのほかにジュネの劇には何が見えるか
『葬儀』にて葬られゆく青年はナチス・ドイツにその身を捧げし
「悪」だとか「裏切り」などと語っても善男善女に出来る筈なし
鉄幹の壮士気取りは朝鮮に無理強いをする日本の勝手
『乱れ髪』難読なのは作者さえ同じであれど直し能わず
精神の病院長を勤めつつ齋藤茂吉は短歌ばかりか
啄木は分かち書きにて短歌詠み『一握の砂』にて人気者になる
啄木の『時代閉塞の現状』は理論なくても時代を掴む
啄木のローマ字日記は読みにくく平仮名などで書けばよかった
透谷のプラトン主義や信仰は幻影だけ追う西欧の罠
鎌田らがローマ字日記を真似しても啄木などに遠く及ばず
大西の『神聖喜劇』を読んでみて記憶の意味を問い直してみる
戦後派の戦争小説を読んでみて生き残る途模索してみる
吉本の批評の意味は戦後派が何処かに行ってしまったことだけ
重治の『村の家』など見てみても転向強いるは頑固な親爺
花袋らは『蒲団』だけにて終わらずに『重右衛門の最後』を書いてみたのだ
大逆で幸徳秋水処刑され遺されたのは幾人ばかり
秋水がかつて著す基督を否定した論今は誰読む
秋水は兆民の弟子そうであれ内村との仲少し微妙か
日露にて鑑三唱へし非戦論今の時代に誰か受け継ぐ
レーニンを冷忍と表す保守派達彼らの恐れはいかほどなりや