フッサールの最後の言葉(「死ぬのがこれほど耐え難いものであるとは思わなかった」)

「死ぬのがこれほど耐え難いものであるとは思わなかった。しかし私は、私の人生を通じてつねに、一切の無益なことを排除しようとこれほどまでに力を尽くしてきというのに……! ある課題の責任を負っているという気持ちにこれほど全面的に深く浸っているまさにその時、ウィーンとプラハでの講演のなかで、次いで私の論文(『危機』)のなかで、きわめて完全な自発性を以って初めて自分の感情を外に出し、かすかな端緒を実感したそのとき──まさにそのとき私は、未完成の私の課題を中断して放置せねばならないのだ。私が終着点に到達し、私にとってはすべてが終わったまさにこの今と なって、私は、すべてを最初からやり直さねばならないということを知っている……」

《(15) これは、フッサールの最後の深刻な病の折に、妹のアデルグンディス・イェーガースシュミット(Adelgundis Jagersschmidt)医師との会話のなかで、彼女に残した最後の言葉である。──W・ビーメル氏の「人間性の自覚としての哲学」への序論からの引用である。》

ジャック・デリダフッサール哲学における発生の問題』(合田正人・荒金直人訳、みすず書房)、p.282, p.330.