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ウラディミール・ホロヴィッツの『シューマンクライスレリアーナ』を聴いています。1985年9、10月 ニューヨークでの録音で、当時ホロヴィッツは81歳です。『クライスレリアーナ』にはCBSソニーでも録音しており(1960年代)、それは『子供の情景』とカップリングされるなど何通りかの売られ方をしていますが、残念ながら私は持っていませんし、聴いたことがありません。CBSソニーシューマンは極めて素晴らしい演奏だと言われていますが、この最晩年の再録音もなかなかいいと思います。

Vladimir Horowitz "The Studio Recordings - New York 1985" (Listz, Scarlatti, Schubert, Schumann, Scriabin)

ロベルト・シューマンクライスレリアーナ 作品16
ドメニコ・スカルラッティソナタ ロ短調 K.87(L.33)、ソナタ ホ短調 K.135(L.224)
フランツ・リスト即興曲 嬰ヘ長調夜想曲)、忘れられたワルツ 第1番
アレクサンダー・スクリャービン:練習曲 嬰ニ短調 作品8の12
フランツ・シューベルト即興曲 変ロ長調 D935の3(作品142の3)
フランツ・シューベルト〜カール・タウジッヒ編曲:軍隊行進曲 変ニ長調 D733の1(作品51の1)

データ:1985年9月12-30日、10月8日 ニューヨーク、RCA、Aスタジオ

シューマン:クライスレリアーナ

シューマン:クライスレリアーナ

Studio Recordings: New York 1985

Studio Recordings: New York 1985

そもそも私は14歳からホロヴィッツを聴き始めました。だから今25年前の関心に戻ってしまっている、ということです。私は、人は生涯にそう沢山の問題に取り組むということはできないと思います。できることはほんの少ししかないのです。例えばその後、私はドゥルーズを読みました。けれども理解できたとは思いません。微分計算ができないからです。

ホロヴィッツが「発見(再発見)」して演奏したから再評価されたというような作曲家達がいます。スカルラッティがそうですが、特にクレメンティです。RCAの『ホロヴィッツ・プレイズ・クレメンティ』を聴きますと、一般の聴衆である私には、クレメンティがとりたてて素晴らしいとか優れているというふうには感じられません。けれどもホロヴィッツ自身は、モーツァルトベートーヴェンを繋ぐ失われた環を発見したのだ、というふうに喜んでいました。それと、別にホロヴィッツが「発見」したというわけでもありませんが、スクリャービンにせよ、ホロヴィッツの演奏が非常に名演奏であったので一般に知られるようになったといえるでしょう。但し、スクリャービンのピアノ・ソナタ(全部で10曲ありますが)をホロヴィッツは全曲録音していません。3番、5番、9番、10番を録音しています。私はスクリャービンのピアノ・ソナタ全集はアシュケナージで持っています。ホロヴィッツスクリャービンであれば「悲愴」と題されている初期の練習曲が大好きで、繰り返し録音していますが、なるほど良い曲だと私もそう思います。スクリャービンには管弦楽曲もあります。『法悦の詩』などです。私はそれほど良いと思いませんが。スクリャービンニーチェなども読んで影響されていますが、ニーチェを理解したとは思いません。スクリャービンは基本的には神秘主義、神秘思想なのです。だから神智学に接近したりします。ニーチェへの関心が本格的なものであったとは思えません。

若い頃のスクリャービンショパンからの影響が濃厚なロマン派でした。練習曲「悲愴」やピアノ・ソナタ第3番などです。その頃にはもちろんまだ調性がありました。けれども彼は晩年、現代音楽的な無調に接近します。といっても、シェーンベルクのように理詰めで考えたというわけではありません。何しろ神秘主義者ですから、「神秘和音」というよく分からないものを考えたのです。それが楽理的にいってどういうものであるのか詳細を知りませんが、確かに不思議な響きであるとは思います。ピアノ・ソナタでいえば第9番、第10番などですし、或いは、「炎に向かって」という凄まじい曲もあります。

Horowitz Plays Scriabin - Piano Sonata 5 / Preludes

Horowitz Plays Scriabin - Piano Sonata 5 / Preludes

Vladimir Horowitz "Horowitz Plays Scriabin" (RCA)
Alexander Scriabin (1872-1915)

Sonata No.5, Op.53 (in Concert, February 1976)
Preludes (in New York, May 1956)
Sonata No.3 in F-Sharp Minor, Op.23 (in New York, May 1956)
Etude in B-Flat Minor, Op.8, No.11 (in Carnegie Hall, February 25, 1953)
Etude in C-Sharp Minor, Op.42, No.5 (in Carnegie Hall, February 25, 1953)
Etude in D-Sharp Minor, Op.8, No.12 (in Concert, Royal Festival Hall, London, May 22, 1982)