近況アップデート

ただまあ、こういうお話しをして読まれる方に興味があるかどうか分かりませんけれども、フーコーに限らず戦中、戦後のフランス哲学にハイデガーの影響は強烈、濃厚でしたが、それは多分にフランス人側の一方的な片想いだったという印象を受けます。ハイデガーサルトルに関しては『ヒューマニズム書簡』(ちくま学芸文庫)を書いて全否定しました。ラカンから『エクリ』を贈呈された時、弟子のボス(精神医学者で、現存在分析の人です。ハイデガーに忠実ではないという理由でビンスヴァンガーを批判しました)に書簡を送り、「所詮こんなものはパリの知的遊戯に過ぎない」と書きました(『ツァリコーン・ゼミナール』みすず書房)。構造主義の流行とか構造主義批判の流行など移り変わりの激しいパリをハイデガーは軽蔑していたのです。フーコーを読んだかどうかはまったく分かりませんが。ハイデガーが「真の思想家」と高く評価したのはメルロ=ポンティただ一人です。

それから日本人では、ハイデガーは田邊元のことを「真の思考者(ドイツ語ができませんが、デンカー、とかいう単語だったように思います)」と称賛していました。また、ハイデガーの対話篇に出てくる「問う人」のモデルは九鬼周造だといわれています。ちなみに、田邊元全集に入っていますが、田邊元はマラルメヴァレリー象徴詩を積極的に参照することでハイデガーを批判し乗り越えようとしました。彼の試みがうまくいっているのかどうか、正当に評価する能力は私にはありませんが、田邊元はフランス詩が別に得意でなかったと思いますが、フランス語原文から自分なりに日本語訳を付けており(逐語訳で相当読みにくいものだったと記憶しますが)、彼なりに努力したのだと思います。