ヘンリー・ミラー
ヘンリー・ミラー、特に『南回帰線』にプレカリティの萌芽を見る、というのもそれほど外れてないんじゃないか。ミラーの小説には、無職でボヘミアン的な生活をしていた時期のことも、突然一念発起して企業に勤めた経験も、ふんだんに盛り込まれているし、形式的にも旧来の文学の約束事を一切無視しているから、面白い。
ジャック・ケルアックらビート・ジェネレーションも、フリーターのはしりみたいなもので、例えば3ヶ月働いては3ヶ月創作活動をする、といった生活スタイルを確立している。確かギンズバーグだったと思うけれど、この国(アメリカ)で「詩人」たろうとすれば、必然的にブルーカラーの(しかもパートタイマー的な)労働者であるほかない、という意味のことを言っている。それは、大学内で安泰な旧来の文学研究者のイメージを覆す提起だったと思う。
ビート・ジェネレーションといっても、ケルアックとバロウズで色合いというか、肌触りが大分違う。ケルアックはスピ系(?)っていうか、何か没入・法悦・超越みたいなのを夢想する傾向があるけれども、バロウズは無機質で、闘いなりに貫かれている。バロウズの世界観は非情である。わけのわからぬ言語=ウイルスとか、生成、変身などに満ち溢れているのが彼の世界だ。
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