陽がくまなくあたっている伊勢崎町交差点は死躰で一杯だった。

陽がくまなくあたっている伊勢崎町交差点は死躰で一杯だった。死躰たちは、押し合いへし合いタバコをくわえ口笛を吹き腕を組みあくびをし風船を喪くして泣きわめき鼻をかみ屁をこきせびり走り転び地だんだをふみ痰をとばし尻をなで万引きし喚き立ち小便しマッチを配り署名をおねがいしアイスクリームをなめ肛門に指を突っこんで嗅ぎああくせえと思い平らげ急に催してトイレへ駆けこみ立ったまま手淫しトイレットペーパーについたやつをそっと女店員の制服にこすりつけ「中華飯店」の裏の大女にちんぼをかまそうばばあを踏み殺そうああだめあれはひでえあそこをたわしで洗ってやんなきゃ中村川に「上等兵」の死躰があがって知ってらあきちがいのじいさん「幸福狂」に住んでたみにくい年寄りくさい年寄りちがうよ中村橋の横のゴミ箱に住んでたやついつもフタの代わりの段ボールをめくると首をぬっと出しやがって屋根とるな! ギャア知らないやつは腰ぬかした看守にちんぼしゃぶらされちまったやつらよってたかった皮かむりのひでえさいていのあかだらけのちんぼを行こ行こだせえんだよじっさいなにもかも死んじまうばけつの水にねこの仔つっこむといつまでも鳴いてやがるミャアミャア早く死にやがれ死ぬっておもしろいねねこも人間も死んじまうたのしいなじついはおれも死んでたりして生きてるまねだったりしてまじめにやってるふりだったりしてみんなそうだったりしてだからどうだっていうわけではないなにごともなく万事快調。(高橋源一郎ジョン・レノン対火星人新潮文庫、p.205-206)

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)