死は、人びとの目には辛いものと映るが…

死は、人びとの目には辛いものと映るが、もっと側によってつぶさに見れば、きわめて美しいものである。死は、もはや余力を持たぬ老人にも、苦痛が待ち受けている若者にも、幼児にも安息を与える。彼らはもはや苦労することも、あくせくと働くこともなく、家を建てたり作物を植えたり、他人のために取り計らうこともない。死は、元金や利子を要求する債権者たちから、債務者を解放する。なぜなら、確定したものごとに憤るべきではない。なぜなら、憤りはことを片づけてはくれないが、もっと明るい気持ちでいれば、たとえ一時にもせよ、それを目に付かないようにしてくれる。なぜなら、いったん港に停泊すれば、そこにはもう嫌なことはありはしない。そして、なお死がそれを見守る者の目によからざるものに映るとしても、ほんの一時、汝の両目を閉じている(大目に見すごす)がいい。いいかね、わたしには分かったのだが、死はいかに美しいか──この地上で苦しみ苛まれた者たちは死を願う。これこそ、地下の世界の住まいが、いかに安楽でいかに明るいかを証すものにほかならない。

内山勝利編集『ソクラテス以前哲学者断片集 別冊』(岩波書店)、p.136-137。アナクサゴラス、「偽作断片 23」。