ピュタゴラスの音楽

「竪琴をかき鳴らし、なぜ美しい音を立てる弦の長さの組み合わせもあれば、そうでない組み合わせもあるのか考えるうちに、ピュタゴラス(あるいは彼に励まされ、触発された人々)は気づいた。リラの弦の長さと音の聞こえ方の関係は、けっしてでたらめなものでも偶然の産物でもないのだ。音のハーモニーの根底を成す比はみな、じつに単純な規則に基づいている。驚くべき閃きの瞬間が訪れ、ピュタゴラス派の人々は、一見すると多様で混沌とした自然がその裏にパターンと秩序を秘めていること、そして数を通してそれを理解しうることを悟った。言い伝えによれば、宇宙が理に適っていることを発見したとき、彼らは文字どおり、そしてまた比喩的な意味でも、思わずひざまずいた。少なくとも、「比喩的」にと言うのはきっと正しい。なぜならピュタゴラス派はこの発見を心から信奉したからだ。ことによるとピュタゴラスの存命中から、そして彼の死後まもない頃には間違いなく、彼らは数に導かれるまま、身の回りの世界や宇宙について極度に先見の明のある概念や、奇想天外で早まった概念を抱くにいたった。」キティーファーガソンピュタゴラスの音楽』(柴田裕之訳、白水社)、p.16。

「以上の一段落は、紀元前6世紀のクロトンでの出来事について知られていることの山場を手短にまとめたにすぎないと思う人もいるかもしれないが、じつは、わかっていることと言えばこれで全部なのだ。」この「全部」には傍点が振ってあります。