中原昌也『ブン殴って犯すぞ!』からの抜粋

中原昌也『ブン殴って犯すぞ!』からの抜粋(中原昌也ニートピア2010』文藝春秋、p46-47)。

とはいえ罵ることで、ストレスが発散されるようなことはない。寧ろ、余計にストレスが増すだけだ。本当であれば、もっと相手が聞いてよいコミュニケーションに発展するようなことが言いたい。可能であれば、そうしたいと常に考えてはいる。しかし、現実は甘くない。とにかく無慈悲で、残酷で悲惨の連続だ。他には何もない。小説を書くということは、それを包み隠さず書く他ない。他は欺瞞である。単なる綺麗ごとだ。そういうことしか身の上で起こらないような人間は、ただひたすらその「無慈悲で残酷で悲惨な」現実を書き連ねるしか正しく書く方法はないのだ。どうにもならないくらい悲しいことだが、それが現実だ。そして小説を書くこと自体が「無慈悲で残酷で悲惨な」現実ばかりを呼び寄せる。小説を書く人間なんて幸せなわけがない。「無慈悲で残酷で悲惨な」ことで人間は生計を立てているのだから、仕方がないのだ。

ニートピア2010

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