治癒

確か昨日の晩だったと思う。いつものように母親と手を繋いでマルエツ二和向台店へ向かっていた途中の会話だ。
私は、不思議なことに、あれほど執拗に続いていた買い物依存症が治癒したような気がすると言ったのだ。
三、四年前、私は、東西線に乗ってあかねに出勤する時、早稲田駅で降りず、もう一つ先の高田馬場駅まで行って、そこから徒歩一分のMUTOというCD屋によく寄っていた。そして、一回に十万円以上も買い物することも多くあった…。無収入だというのに、全く何を考えていたのか分からぬ。何か悪い霊に憑かれていたとしか考えられぬ。
私は借金返済のために日雇い派遣に登録し、働き始めて二日目に、転倒して右肩を酷く骨折した。ところがである。私は、骨が折れているのにMUTOに直行し、膨大な量のCDを買い漁ったのである。これは、以前もどこかで書いたことがあるが、このような異常な行動心理は、今となっては理解できぬ。
あかね店員を辞めて浦安の倉庫で賃労働をするようになり、高田馬場のMUTOに行かなくなったら、今度はAmazon地獄が待っていた。
クリッククリックで膨大なCDを買った。恐ろしい程の量のCDを購入した。働いても働いても、借金は膨れ上がるばかりであった。
そのことで、親子喧嘩も何回もした。

ところが今は、その買い物依存症が治まっているのである。
月に二、三枚購入&DMMレンタルという約束を守り、それ以外買わなくなった。そうすると、もう買いたい欲望もなくなってきた。不思議なことだが、あれほど私を苛んでいた、所有したいという欲望がなくなった。
ないものねだりよりあるもの探しという言葉があるが、私は実際、もう十分にジャズに関しては持っているのである。基本的に名盤は全部持っている。これ以上何を望むか。もう望むものなど、ないのである。
そのことを理解した。それで、消費をしなくなった。
もう十年来、本は全て図書館で済ませている。CD以外のものはほとんど買わぬ。となれば、ほとんど奢侈的な消費はなくなり、日常生活を維持するための消費のみになる。
それでいいのだ、と思う。
悟りを開いたかのようで、気分が良い。迷妄から醒めたような気持ちだ。錯覚かもしれぬが。