雑感

森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』(角川SSC新書)を読む。森永はリフレ政策そのものには賛同している。彼は金融緩和や財政出動には賛成で、しかし成長戦略に反対なのだ。それは「ショック・ドクトリン」のようなものだと彼は述べる(16ページ)。それが超格差社会を齎すのだというのが彼の意見である(17ページ)。「安倍首相はマジックを見せてくれたのではなく、初めてまともな金融政策・財政政策を実行したということ。これがアベノミクスの実態で、この点については、私は全面的に賛成している」(19ページ)。彼は3本目の矢=成長戦略が危険極まりないというのである。個別の細部はいろいろとあるが、森永の主張の基本線はほぼそれだと申し上げていいだろう。確かに現実の世の中というものは経済学理論やマクロ経済政策だけで動くものではなく、政治的要因であるとかその他の様々な(経済理論外の)要因もある。だからアベノミクス、その第一の矢(金融緩和)と第二の矢(財政出動)が経済学理論的にみていかに正しかろうと、結果として脱デフレの恩恵は富裕層が独占し、庶民は窮乏を強いられるという「超格差社会」になるという警告もリアリティがあるのかもしれない。私は経済学を専門に学んだ者ではないので、上述の見方がどうかということについて論評はできないが、ただ一つはっきりしているのは、森永は浜矩子や中谷巌野口悠紀雄その他の激烈崩壊派、日本壊滅派とは異なるということである。また、経済学者でそんなことを言う人がいるのかどうか知らないが、たまにデフレは物価が安いから庶民にとってはいいのだ、脱却する必要なんかないという人もいるが、そういう意見とも異なる。金融緩和は実体経済を改善しない期待(による多少の動き)だけのものであるとか、それは激烈な経済混乱を齎すといった類いの意見も彼は斥けている。私の非常に限られた知識、見識の範囲では全くその通りではないかと思うのだが、だがしかし、特に第三の矢=成長戦略(規制緩和やTPPを含む)への激烈な批判をどう考えればいいのだろうか。それは「超格差社会」を齎す……。くどいようだが私は専門家などではないのだが、そうすると、経済(学理論)と政治、また生活、さらに、経済学などの科学理論とイデオロギーの関係について思案せざるを得ない。アベノミクスによって日本経済が改善してきたことは経済学の教科書通りだと森永は言うのである。批判派、反リフレ派がいうような実体ではないとかヴァーチャルとか、期待だけとか、表面的とか、さらにはハイパーインフレになるなどのことではないだろう。それは私も深く賛同する。だが問題はその先である。狭く経済の話題を離れると、とりわけ政治関係において、氏の論述は余り妥当とは思えない陰謀論というか思惑というか、推測というか、とめどもなくそういうものに接近していく傾向がある。例えば、野田佳彦首相の意図は民主党を潰すことだったなどである。私はそれには疑問を持つ。それから森永は東北復興策として次の三つを提案している。まず、東北地方の高速道路無料化。次に、首都機能移転。最後に消費税率の据え置きだが、何というか私はただ単なる空論ではないかと感じるが、東北地方の皆さんだけでなく多くの皆さんの御感想も御窺いしてみたいところである。