三島由紀夫の『禁色』

さて、続きである。以上のことからぼくは、三島由紀夫の『禁色』を想い出す。それは、これまで女性に散々翻弄されてきた老作家が、女性に復讐するために、年若い同性愛の美青年を人形のように操るが、最終的に挫折して自殺する(そして、遺産を青年に遺贈する)、という物語である。

専門の文学的には、文体や小説技巧、構成がどうのこうのということがあるだろうが、ぼくはそれには注目しない。ぼくが面白いと思うのは、その『禁色』において、老作家と同性愛の青年という対比だけでなく、当時の時代風俗、社会風俗として様々な人々、まだ新宿二丁目もない頃の同性愛の人々が活写されている、ということである。それは非常に興味深い。

例えば、その青年がゲイバーに入ると、二人のゲイが彼を求めて争い、喧嘩をして、ほとんど殺し合いに発展しそうになっている。しかしながら、青年は非常に冷ややかである。彼はただ単にこう言う。僕は彼らが、僕のいないときには二人で懇ろによろしくやってるのをよく知っているんだ。