ショーペンハウアー(ショーペンハウエル) Arthur Shopenhauer

アドルノはそのヘーゲル論のなかで、ヘーゲルと対比してショーペンハウアーの哲学を下らないと貶した。

三つのヘーゲル研究 (ちくま学芸文庫)

三つのヘーゲル研究 (ちくま学芸文庫)

アドルノの云わんとするところは、分からないでもないのだが、しかし自分は彼に同感できぬ。ヘーゲルの晦渋極まりない弁証法論理よりも、ショーペンハウアーの明快なペシミズムのほうが、私には訴えてくる。
と云っても、自分はショーペンハウアーの主著を讀破したわけではない。『意志と表象としての世界』は体系的で分厚い本である。哲學科出身の哲學徒としてはこれを讀まねばならぬのであろうが、なかなか讀む氣になれぬ。
その代わりに讀んでゐるのが、岩波文庫から出ている、比較的薄いエッセイである。
自殺について 他四篇 (岩波文庫)

自殺について 他四篇 (岩波文庫)

読書について 他二篇 (岩波文庫)

読書について 他二篇 (岩波文庫)

「自殺について」の次のくだりは特に好きだ。

自殺はまた一種の實驗──人間が自然に向って投げかけてそれへの解答を強要しようとしているような一種の問題、とも看做されえよう。即ちそれは、現存在と人間の認識とが死によってどのような變容を蒙るか、という實驗である。しかしこの實驗は手際が悪い、──何故というに、肝腎の解答をききとるべき筈の意識の同一性を、この實驗は殺してしまうのだから。