中原昌也『事態は悪化する』からの抜粋

中原昌也『事態は悪化する』からの抜粋(中原昌也ニートピア2010』文藝春秋、p273-4)。

人々が自分を死ぬ程疲労するように望んでいる。その疲労させるような出来事の詳細を、鮮やかに見事な筆致によって描き出すべく精進しようと心がける。
記述することによって、自分の悲惨を直視せよ。悲惨を引き換えに生活費を稼げ。他に逃げ道はない。書けば書くほど、悲惨な目に遭い、それだけ生活費が稼げる……小説を書くこと、悲惨な目に遭うこと、公共料金を払えるくらいに生活できることの三つは、切っても切れない関係となっている。
何の達成感も、喜びもない。ただ虚しいだけ。面白くないだけ。辛いだけ。悲惨なだけ。人から嘲笑われるだけで、何もない。それしか自分を養う術などない。そのためだけに、こうして文字を書き連ねている。
自分が何をやっているのか、まったくわからない。出口は見つからず。ただただ辛い。
死ぬのは面倒臭い。だが、この虚しく文字を打ち込んでいるパソコンの前から永遠に消えたい。

ニートピア2010

ニートピア2010