ジャズの現象学から考古学へ

ジャズの現象学からその考古学へと遡行していくとき、アーリー・ジャズと呼ばれるものの研究が必要であることは、言うまでもないでしょう。
私が所有しているもののなかで最も古いのは、ルイ・アームストロングのホット5、ホット7ですが、20年代のそれらの録音は恐らく、吉本隆明が『初期歌謡論』で『万葉集』について語ったのと同じことを言われるべきなのでしょう。つまり、それは既に高度な達成なのだと。
ビバップ以降のいわゆる「モダン・ジャズ」から見れば、いかにも素朴に映るサッチモの音楽も、実のところ高い達成である。このことは、例えばアール・ハインズを見ても明らかでしょう。彼の録音は、20年代のそれも刺激的ですが、いわゆる復帰以降のトリオやソロピアノも同じく刺激的なのです。復帰後のアール・ハインズが、ビル・エヴァンスを押しのけて、ジャズ雑誌の人気投票のピアニスト部門一位に返り咲いたということも、ジャズという音楽の本来的な新しさを示していると考えます。ハインズとエヴァンス、「スタイル」的には随分違います。それが、同一平面上で聴かれ得るということ、このことにジャズという音楽の若さが示されていると考えます。

初期歌謡論 (ちくま学芸文庫)

初期歌謡論 (ちくま学芸文庫)