面白い逸話
といってもジャズピアノに興味ない人には面白くないかもしれぬ。
以下、油井正一さんの解説からの抜粋である。
●アート・テイタムの偉大さ
評論家バリー・ユラノフは40年代、ハーレムのパーティで、当時一流といわれた3人のピアニスト──ナット・キング・コール、エロール・ガーナー、アート・テイタム──の演奏をきいたあと、座談の一刻をすごした。
話が「影響」に及んだ時、ナット・コールがまず口火を切り、
「僕がいちばん影響をうけたのはアール・ハインズ」といい、同意を得るようなまなざしをアート・テイタムに向けた。
テイタムはいった。
「僕の場合はファッツ・ウォーラーだ。僕のピアノ・スタイルは完全にファッツ・ウォーラーに発している」
エロール・ガーナーはピアノの前にすわって、アール・ハインズとファッツ・ウォーラーのスタイルを混合させたような彼自身のスタイルを披露した。
アール・ハインズとファッツ・ウォーラー……この2人は、ジャズ・ピアノ界に最大の影響を与えたスタイル・メーカーである。
エロール・ガーナーが無言で示したように、ファッツ・ウォーラー・スタイルを継承した次代のピアニストは、例外なくアール・ハインズの影響もうけ、両者の折衷型に発展していった。