非常勤芸能従事者と失業保険

マウリツィオ・ラッツァラート『出来事のポリティクス 知-政治と新たな協働』(村澤真保呂・中倉智徳訳、洛北出版)を読んでいるが、面白い。フランスの非常勤芸能従事者(アンテルミッタン)の闘争などをフーコードゥルーズ=ガタリらを発展させたかたちで、ガブリエル・タルドなどを援用しながら論じているのだが、自分などまさに「非常勤芸能従事者」であり「不安定生活者」そのものだと思った。
ただ、ヨーロッパなどと日本とでは、状況が違うと思った。
一つは、失業保険・失業給付である。福祉国家が破綻したと喧伝されていても、まだEU諸国は失業保険・失業給付が手厚く、失業保険・失業給付で喰いつなぎつつ「賃労働」せず活動している活動家/芸術家が山程いる。しかるに、日本において、失業保険や生活保護は、利用し易い制度ではない…。「非常勤芸能従事者」「不安定生活者」は「もう演奏しない!」と「否(ノン)」を突き付ける権利を得る以前に、そもそも演奏する場がないのだ。日本では。故にストライキもできない。スト、ボイコット、サボタージュ以前に、雇用がないのである。端的に。
例えば私は、今日、津軽三味線奏者として働いた。しかし、こんなことは、年に数度あるかないかなのである。「否」を言う余裕などまるでない! 機会が来たらどれでも捉え、演奏せねばならぬ。そういう意味で、EUとそれ以外の地域で差異があるな、と思った。
また、議論も粗い。だが、ネグリ=ハートやヴィルノに続く、新しく面白い思想家の登場だ。これは注目、買いですよ!