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攝津は土曜日、やはり倉庫を退職しようかと考えた。両親からAmazonでの買い物を責められた事による情緒不安定が原因である。よし、何も買わぬ、その代わり働かぬぞ、と思ったのだ。だが、思い詰めて一階でパソコンに向かっていると老母が降りてきて切々と情緒を説き、翻意してやはり来月から仕事に行く事にした。後二ヶ月住宅ローンを乗り切れば、何とかなるし、その後もお金があればいろいろな非常時に備えられるだろう。
もうどうなってもいい、死んでもいい、というような気持だったが、落ち着いてきた。しかし、猫の目の様にころころ変る気分がどうにかならぬものか。仕事に復帰したとしても障害になることは必定である。気分変調は攝津の主な障害であった。
余り考え過ぎぬ事だ、と攝津は思った。予期して、不安になってしまう。それで身がすくんでしまう。そういうパターンを繰り返してきた。だから予期せず、与えられた仕事をきちんとこなせばそれでいいのだ。「現在」に集中せよ。現在目の前にある物に集中せよ。攝津はそう自分に言い聞かせた。