マイルス・アヘッドとザ・シーン・チェンジズ

マイルス・デイヴィスギル・エヴァンス・オーケストラをバックにフリューゲルホーンを吹く、マイルス・アヘッド。僕はその美しさに聴き惚れてしまった。これほど美しい、そして無駄な音が一切ない音楽は珍しい。
豪華なビッグ・バンド・サウンドの伴奏も、マイルスの吹奏の孤独さ・寂寥感を更に浮き立たせる効果を持つ。
中上健次が、マイルスは芸人なのに対しコルトレーンは芸術家だ、みたいなことを言っていたが、そういうことはないと思う。二人は異なる芸術家のタイプなのだ。マイルスは、美的・内省的。その資質が全面展開されたアルバムの一つが、このマイルス・アヘッドだと言っていいと思う。非常に素晴らしい。
バド・パウエルのザ・シーン・チェンジズ。これまた素晴らしい傑作だ。特に、余りにも有名な冒頭のクレオパトラの夢は、アドリブフレーズも、まるであらかじめ作曲されてあったかのような自然さと哀愁を持っており、これが哀愁パウエル(後期パウエル)の代表作の一つであることを強く印象付ける。パウエルは超絶技巧を失った代わりに何かを得たのだ。それが何であるか明晰に語るのは難しいが。