買い戻し論への疑義
柄谷行人『世界共和国へ』の西脇尚人さんの要約に刺激を受けている。が、疑問な点がある。「買い戻し論」に関してだ。
僕は(マルクス)経済学は専門でないので、間違いもあるかもしれないがご寛恕を。買い戻し論というのは、確か宇野弘蔵が言い出した議論で、労働者(プロレタリアート)が自分の生産した商品を消費者として購入することで「買い戻し」、資本はそれによって剰余価値を実現する、という議論である。『可能なるコミュニズム』〜『NAM原理』〜『トランスクリティーク』〜『世界共和国へ』は基本的にそのラインに立ち、流通過程において消費者として現出する労働者が、不買を展開することで資本の剰余価値実現を頓挫せしめる戦略が語られている。
しかし、疑問な点が幾つかある。まず、世界大の交通が進んだ現在では、一国内部では「買い戻し」を考えることはできないということである。多国籍企業は、生産労働者もコストの安い外国で調達するが、消費者=顧客も外国で調達すればいいのであって、自国の労働者を富ませる動機はそもそもない。フォーディズム期にあっては、「フォードの車を生産している労働者がフォードの車を買えるように賃金を上げていこう」というモチベーションが労使ともにあったので、確かに「買い戻し」論も一定のリアリティがあったかもしれない。しかし、ポスト・フォーディズムと言われる現在、その議論は有効か。僕は無効だと思う。
酒井隆史らも指摘するように、とりたてて技能も生産手段も持たない下層貧民=プレカリアートは、「絶対的」過剰人口、言い換えればJUNKと化している。(資本の側からそう規定されるということだ。)JUNKには勤勉な生産的労働も、消費も期待されない。彼・彼女らには監視と社会的排除があるのみである。そういう存在の対抗運動の原理として「買い戻し」論を想定することは、誤りだと僕は思う。
如何だろうか。意見求む。
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