批評

クリヤ・マコト『My Music is Your Music』

My Music is Your Music

My Music is Your Music

クリヤさんのところには、高校生の頃、何度かレッスンを受けに通ったことがある。クリヤさんがバード=チャーリー・パーカービル・エヴァンスを本当に愛していることが伝わってきて、良い経験だった。私は今でも、クリヤさんから習ったコードを使って弾いている。ルートを抜き9度の音を押さえるやり方は、モダンな感じの音づくりができて、とても良いと感じる。

さて最新アルバムの本アルバムだが、日本フリージャズに批判的でリリカルで知的な音楽創りを目指してきたクリヤさんの真骨頂という感じだ。ビル・エヴァンス及びハービー・ハンコックの後継者的な位置に彼がいるということがよく分かる。ハービー・ハンコックビル・エヴァンスの曲を取り上げているが、うまく捌いているなと感じさせる。

が、クリヤさんのCDで一番好きなのはデビュー作の『ボルチモア・シンジケート』。斬新な音作りで、尖っていたと感じる。今は円熟に向かいつつあるのかな。

ディジー・ガレスピー『アット・ニューポート』

ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート+3

ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート+3

ディジーは過小評価されている。パーカー=ガレスピーというのは、マルクスエンゲルスとかドゥルーズ=ガタリにちょっと似ていて、パーカーの天才性が喧伝されればされるほど、ガレスピーの大衆性?なりが貶められる、という構図が出来上がってしまっている。

が、これは正真正銘のジャズ、素晴らしいアルバムだ。ディジーは、トランペットのテクニックだけでいえば、ジャズ史上最高の超絶技巧家なのではないか、と思う。例えばマイルスは、技巧というよりもコンセプトを組み替えることで音楽を刷新し続けたわけだけれど、純粋に技術的にいうとディジーの華やかなトランペットは誰にも換え難いものを感じる。

圧倒的な「ディジーズ・ブルース」、ロックを諷刺した「スクール・デイズ」、ディジーの最高傑作の一つとも言える「マンテカ」、あまりに美しいメロディ・ラインに息を呑む「アイ・リメンバー・クリフォード」、そして若いリー・モーガンの才能が炸裂する「チュニジアの夜」。聴き返すたびに素晴らしさが実感されてくる。

が、ここで二点、留保をつけなければならないだろう。

「スクール・デイズ」はロックを諷刺した作品だが、ジャズメンとしてのディジーには、モンク同様ロックの意義を理解できなかったところがあるのではないか、それがマイルスとの最大の違いだと思う。モンクは、ロックとは「粗雑なジャズ」だと言い放った。ディジーの認識もそれと大差ないのではないか。それに対し、マイルスが電化サウンドの意義を十分に理解し、問題作を次々に放っていったのは対照的だ。

もう一点は、アメリカ帝国主義との関わりである。平岡正明菊地成孔の本で強調されるように、バップの創造者達は基本的にはアメリカが遂行する戦争なり国家戦略に厭戦的であったというのは事実である。が、ガレスピーは中東にアメリカの音楽大使?として行って、ジャズを普及する活動をしている。つまり、アメリカの国家政策に関与しコミットメントしているのだ。ジャズと戦争責任なりを考える時、この問題はもっとよく考える必要を感じる。