「かけがえの前進」を観ての感想
○ かけがえの前進
http://www.cinema-juku.com/kakegaeframeset_104.htm
を観ての感想を送ります。
彼は、そんな自らを省みても、識者の言う＜精神病者は安全だ＞という意見はきれ
い事にすぎない、と主張する。たとえば刃物を持って暴れだした精神病者を止められ
るのは医者でも弁護士でもなく、同じ精神病者だけだと言う。だから患者会をつくり、
精神病者同士が共に暮らせるようにし、そのうえで彼らと社会との接点を模索すべき
だと考えている。
このように江端さんは、「精神病」者のコミュニティ、具体的には患者会における
＜共生＞ に展望を見出します。
わたしが映画鑑賞後の意見交換の場で述べたのは、そのようなコミュニティ意識、
＜仲間＞意識を持ちにくい人たちの存在をどう考えればいいのか、ということでした。
以前、「厄介な症例」（ボーダーなど）のことで問題提起したとき、山本真理さんも
ただ「精神病」者団体にいても仲間意識は持てない方が多いようです。
とおっしゃっていました（[psy-net:6208]をもう一度みてください）。
仲間意識を持てない者どうしの緩やかな連合のようなことは可能なのだろうか？
もしそれが可能でないならば、生きづらいけれども医者に行っても「病気ではない」
とされてしまう人たち──わたし自身も含めて──の行き場、居場所がなくなって
しまう、と思いました。
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この間、措置入院の経験のある「精神病」者の知人の訃報に接しました。
わたしは、きっと自殺に違いないと直感しました。
少しして、別の知人が、オーバードーズで自殺未遂しました。
助かりましたが、医者に行っても病気ではないから薬は根本的な治療手段には
ならない、カウンセリングを勧められている、という話をききました。
亡くなった知人は、正真正銘の「精神病」者でした。
では、自殺未遂したほうの知人はどうか？ 「精神病」者であるとも
ないともいえません。通院し、薬をもらい、カウンセリングを受けていますが、
病気ではないと医者には言われ、しかし＜生きづらさ＞を抱えています。
正真正銘の「精神病」者と、「精神病」者にもなれない中途半端で曖昧な存在は、
ゲイとバイセクシャルが違うのと同じくらいには違っており、ゲイとバイセクシャル
が似ているのと同じ程度には似ています。
山本真理さんが読書を勧めてくださった神田橋條治先生のいうところの
「厄介な症例」（『精神療法面接のコツ』第７章）にぞくする患者には、
医者の側から、また患者仲間どうしの間で、二重の差別があると思います。
そしてそれはセクシュアルマイノリティの世界でのバイセクシャル差別に
通じる構造を持っていると感じます。バイセクシャルが「本物の」レズビアン／ゲイ
ではないからという理由で二級市民扱いされるのと同様、「厄介な症例」として
括られうる一群の症状を訴える人たちは「本物の」「精神病」者でもなければ
「健常者」でもないという理由で、二級市民扱いされます。
こうした問題をどうとらえていけばいいのか？ というのがわたしの
最大の関心事です。それは自分自身の問題でもあります。
高根台メンタルクリニックの主治医の先生からは「不安障害（不安神経症）」
という診断を受けていますが、そんなわたし自身は「精神病」者なのか、
そうではないのか？
自分自身症状の悪化・軽快化の波を繰り返しつつ、また知人らの自殺や
自殺未遂の報せに接しながら、「コミュニティ」や「仲間」といった
ことばがさししめす現実についていつも考えています。
「かけがえの前進」の主人公、江端一起さんの生き方は一貫して筋が通って
います。しかし、そのように筋を通してあれない中途半端で曖昧な存在が、
どこにどのようにして＜出口＞を見つけていけるのか、ということが、
わたし自身の一番の関心事であることが、映画を観て痛感されました。
このような貴重なフィルムを観る機会を与えてくださったいずみさんに
心からの感謝の念を記します。
--
攝津正 "Linda"
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