生活第一主義を巡って

単刀直入に申し上げて、民主党による政権交代以降の現在の日本政治のトピックは、「国民の生活が第一」という生活第一主義の評価であろう。勿論、左翼的には「国民」、「生活」そのものが問題だ、ということはあるとしても、ここではそういう細かいことまで論じない。

選挙での民主党の勝利=躍進、民主党政権の成立は、基本的には「国民の生活が第一」という生活第一主義が国民=有権者から支持されたということが最大の理由だと見るべきだ。それはその前段階から吟味すべきだが、まず、郵政民営化固執した小泉純一郎政権の後、安倍晋三政権が成立したが、安倍は改憲とか美しい国など壮大な保守主義的・右派的理念を掲げたが、実際にはほとんど何もできないまま突然病気を理由に退陣した。その後の福田康夫政権、麻生太郎政権も本格政権とはいえなかった。大多数の国民、職業政治家とか党関係者などではない国民は、上述の事態に苛立っていたはずなのだ。

民主党が展開した「マニフェスト選挙」がどうだったのか、という批判的吟味はともかく、民主党が空疎な理念や言語遊戯ではなく、実際に自分達の生活を向上させてくれると思ったから、多くの人々は民主党に投票したのだろう(私は投票しなかったが)。そして、その場合の「生活が良くなる」というのは、景気の回復とか、減税とはいわないまでも最低限消費税増税はしないとかいうことだけではなく、鳩山由紀夫政権が掲げた「沖縄のアメリカ軍基地最低でも県外に移設する」といった約束をも含んでいたはずだ。

ところが、鳩山由紀夫は頓挫し、辺野古移設という自民党政権以来の立場に逆戻りするしかない、という結論を出してしまった。そして、彼以降の菅直人野田佳彦の内閣では生活第一主義はどんどん後退し、沖縄問題を解決する意思がないだけでなく、原発事故、脱原発イシューにもまともに対応できず、さらに、消費税増税(税と社会保障の一体改革)など国民生活に痛手を与える政策がどんどん実行されてきた。確かに、国家や政府は一定の税収がなければ運営できないし、財政健全化も必要なことだろうが、政府の役割や徴税システムそのもの、社会制度総体を含めてきちんとした吟味・検討が必要だっただろうとは思う。

現在は、恐らく、多くの人々が上述の経緯に失望している時期である。元々共産党社民党などの革新政党、左派はあったが、特に社民党は当初民主党中心の連立政権に国民新党と共に参加していたが、鳩山由紀夫の挫折と態度変更をきっかけに連立を離脱した。また、小沢一郎と彼のグループが離党して新党「国民の生活が第一」を結成したのも大きい。保守勢力、右派を見れば、東アジア情勢の緊迫を背景に自民党が勢いを増しているだけでなく、大阪市市長の橋下徹が「日本維新の会」を立ち上げ(ローカル政党「大阪維新の会」から生まれた)、メディアから注目されている。

以上を総合すると、現在の民主党政権は、左右両翼から厳しく批判され、民心も離反している状況である。原発対応、増税、TPPを巡って社・共や「生活」、みどりの党から批判され、さらに、右からは自民党公明党・「維新」などに叩かれる。民主党代表で日本国の首相・総理大臣である野田佳彦が幾ら現実主義の必要を繰り返し説いたところで、国民の支持は容易には回復しないであろう。それが現在の状況である。