倉数茂『黒揚羽の夏』(ポプラ文庫ピュアフル)

再讀。

(P[く]2-1)黒揚羽の夏 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[く]2-1)黒揚羽の夏 (ポプラ文庫ピュアフル)

↓も讀みたい。『黒揚羽の夏』を讀むのは何度目か知れぬが、何度讀んでも面白い。特に、以下の科白。

「もしかしたらきみは、何か問題を抱えているんじゃないかな。もちろん悩みのない思春期なんてほとんどありえないし、もしそんなやつがいたとしたら、それは単なる救いようのない愚か者だ。もし嫌でなかったら、きみのその悩みを少しだけ僕に打ち明けてみてはどうだろう。実は僕は人の苦しみをちょっとだけ味見してみるのが好きなんだ。満足が凡庸で退屈な人間しか生み出さないのに対し、苦しみは人を興味深い存在に変えるからね。どう、僕に話して、わずかでも楽になってみないかい」(p153-154)

「おまえたちは生きているのが地獄だと思ったことはあるか。あんまり苦しいんで何も感じないでいたら、どんどん自分が空っぽになっていく感覚がわかるか。一分一秒が地獄だと、人は感覚を断ち切ってしまう。見えているものを見ず、聞こえているものを聞かず、痛みを痛みと感じず、屈辱を屈辱だと気づかない。そのようにして、俺は凍りついた空っぽの部屋になった。空っぽの部屋に、怒りと哀しみだけが雪のように降りつもった。初めてあの映画を見たとき、空っぽの俺の中に何かが入り込んできてしまったんだろうな。それは俺を占領してしまった。それから俺はずっとそいつと一緒に生きてきた」(p261)