寺山修司全歌集

寺山修司全歌集 (講談社学術文庫)

寺山修司と云ふ人は多方面の才能に恵まれてゐた人だつたが、私見では最も優れているのは短歌表現である。彼の演劇は、残念ながら生まれて来た時代が違つた為實見することが出來なかつた。私が接したのは文章における寺山修司だけで、つまり、「讀む」事においてのみ判断する限り、短歌表現が最高と思へた。
例へば本書冒頭の次の歌など、何とも云へず不気味な雰囲気を湛へてゐる。

大工町寺町米町仏町老母買ふ町あらずやつばめよ

晩年の歌集『田園に死す』には此の様な歌が無数に散りばめられてゐる。そして初期の歌は伸びやかな叙情である。これほど表現に幅のある歌人も珍しいのではないか？
ともあれ、自分にとつては寺山修司は短歌の人である。