早朝覚醒

年寄り病とも云うべき早朝覚醒が続いているが、今日はなんと、0時過ぎに就寝、2時に目が醒めた。2時間しか眠れていない…。眠くないので一階に降りてきて、Lionel Hampton, Stardustを聴いている。

スターダスト

スターダスト

正岡子規が死の前年の明治34年9月から死の直前まで綴った『仰臥漫録』が凄い。
仰臥漫録 (岩波文庫)

仰臥漫録 (岩波文庫)

十月十三日 大雨恐ろしく降る 午後晴
今日も飯はうまくない 昼飯も過ぎて午後二時頃天気は少し直りかける 律は風呂に行くとて出てしもうた 母は黙つて枕元に坐つて居られる 余は俄に精神が変になつて来た 「さあたまらんたまらん」「どーしやうどーしやう」と苦しがつて少し煩悶を始める いよいよ例の如くなるか知らんと思ふと益乱れ心地になりかけたから「たまらんたまらんどうしやうどうしやう」と連呼すると母は「しかたがない」と静かな言葉、どうしてもたまらんので電話かけようと思ふて見ても電話かける処なし 遂に四方太にあてて電信を出す事とした (中略) さあ静かになつた この家には余一人となつたのである 余は左向に寝たまま前の硯箱を見ると四、五本の禿筆一本の験温器の外に二寸ばかりの鈍い小刀と二寸ばかりの千枚通しの錐とはしかも筆の上にあらはれて居る さなくとも時々起らうとする自殺熱はむらむらと起つて来た 実は電信文を書くときにはやちらとしてゐたのだ しかしこの鈍刀や錐ではまさか死ねぬ 次の間に行けば剃刀があることは分つて居る その剃刀さへあれば咽喉を掻く位はわけはないが悲しいことには今は匍匐ふことも出来ぬ やむなくんばこの小刀でものど笛を切断出来ぬことはあるまい 錐で心臓に穴をあけても死ぬるに違ひないが長く苦しんでは困るから穴を三つか四つかあけたら直に死ぬるであらうかといろいろに考へて見るが実は恐ろしさが勝つのでそれと決心することも出来ぬ 死は恐ろしくはないのであるが苦が恐ろしいのだ 病苦でさへ堪へきれぬにこの上死にそこなふてはと思ふのが恐ろしい そればかりでない やはり刃物を見ると底の方から恐ろしさが湧いて出るやうな心持もする 今日もこの小刀を見たときにむらむらとして恐ろしくなつたからじつと見てゐるとともかくもこの小刀を手に持つて見ようとまで思ふた よつぽと手で取らうとしたがいやいやここだと思ふてじつとこらえた心の中は取らうと取るまいの二つが戦つて居る 考へて居る内にしやくりあげて泣き出した その内母は帰つて来られた 大変早かつたのは車屋まで往かれたきりなのであらう
逆上するから目があけられぬ 目があけられぬから新聞が読めぬ 新聞が読めぬからただ考へる ただ考へるから死の近きを知る 死の近きを知るからそれまでに楽みをして見たくなる 楽みをして見たくなるから突飛な御馳走も食ふて見たくなる 突飛な御馳走も食ふて見たくなるから雑用がほしくなる 雑用がほしくなるから書物でも売らうかといふことになる…………いやいや書物は売りたくない さうなると困る 困るといよいよ逆上する