事実と規範

経済学は事実を扱う科学であるので、倫理的な規範には言及しない。例えば、経済学者は自由貿易に賛成し、自由放任を主張し、政府の介入、例えば最低賃金法や家賃の上限規制などが好ましくない結果を齎すと論じる。
それに対して、倫理や政治の立場からは、労働者の権利主張や貧しい者の生存要求が提出されるだろう。だがそれは、規範ないし理念に関わるもので、経済学とは相容れない。
経済学者、特に「新しい古典派」の経済学者らは冷酷である。労働運動の存在によって最低賃金が定められ、賃上げが勝ち取られてきたというのに、その賃金の硬直性のために失業が生じるというのだ。家賃の上限規制や解雇規制についても、彼らは緩和ないし撤廃すべきだという。それらが存在するために、市場が適切な調整を行うことができないというのだ。だが、そう言われるとき、困窮している個々人の生はいかに貶められてしまうことか!
私は科学ではなく、倫理や政治の側に立ちたいと思う。経済学を学びつつ、経済学に染まらないように気を付けたいと思う。