永井均『なぜ意識は実在しないのか』(岩波書店)p7

脳が意識を生み出しているとしても、その脳をどんなによく観察しても、その脳がやっているその仕事は決して見えません。世の中の他のあらゆるものは、それをよくよく観察すれば、それを宿しているものや、それがやっている仕事が次第に明らかになってくるのに、ここにはそのような普通のつながりがまったくないのです。胃のやっている仕事は胃をよく観察すればわかるのに、脳がしている仕事は、そういうやり方では決してわかりません。脳がしている仕事を見るには、脳を観察しないで、脳自身に注意を向けないで、むしろ世界を見なければならない。目の前に見えている茶色いカーテン、耳に聞こえているエアコンのうなり声、噛んでいるキシリトール・ガムの味、それらがすなわち脳がしている仕事です。世界に、これ以外に、これと似た種類のことはどこにも生じていません。脳と意識の関係は、他のどんな関係にも似ていないのです。

なぜ意識は実在しないのか (双書 哲学塾)

なぜ意識は実在しないのか (双書 哲学塾)

この議論はよくわかる。