唸る!

えーと、例えば野田努さんの本読むと分かるのは、ブルースの問題は、現在は有色人種もしくはゲイ・ピープルのあいだに受け継がれている、ということですね。セクシュアル・マイノリティの生活っていうものが、現在最も濃厚にブルースを醸し出している。そういう意味では現在、人種にかかわらず、ブルース衝動っていうものは引き継ぐことが可能で、むしろ今は、二〇世紀的な「アメリカの黒人という負の特権性」は、少なくとも音楽の世界では失われつつある中で、ある種の絶望や怒りが世界に充満されとりますから(笑)、憂鬱を官能に変えるブルースのアートっていうものがこれほど具体的に必要とされている時代はないと思います。そういう意味で僕らはあまねくブルースを引き受ける可能性があるし、必要もあるんじゃないか、と。黒人がブルースって形で一番最初に二〇世紀に持ち込んだ根源的な文化の質っていうのは、今では世界中で共有されてて、現在日本においては簡単に言えば鬱病ね。抗欝剤の売り上げナンバーワン国家! みたいな(笑)この国から、新しいブルースが生まれる可能性はあると思います。ブルースは最初にも言ったけど、憂鬱だけじゃなくて、楽しさと悲しさ、あらゆる善意と悪意がごっちゃになってる状態なわけで、憂鬱を官能に。というよりデプレッションをスキゾフレニーに変える、と。それをゲットできればレイヴとかに行って、わざわざ一生懸命にハッピーになろうとしなくても大丈夫だと思うんですが(笑)

菊地成孔 大谷能生

東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・キーワード編

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