SEI is a little prayer

"SEI is a little prayer" 西田鬼太郎 名義 (1990年代末)

 凍り付くやふな風吹く白茶氣た薄明の街包む頃、空にはまぼろし、地には戀人ら這ひたる。諸の筒ヨリ悦びの雫しとどに垂れ、今にも消へんとす月明かりに照らされてかがやき、廻る廻る歴史の無常をうたひあげてゐる。さてはやり唄ながれ、泡沫の如き人の世の営みをば称へんとす。これこのやふなり。

 ♪ すみら、バーテンダーズ・ラヴ
    オナらふ 君も一緒に
   明日は明日
    來 來 來 來 來
   君は君でイつたら?
    すみら、すみら……

 冬の街を蝿様のなりしたる雄、独り歩きたる。黒コオト一枚引ツ掛け、その下は雪の如き肉。色こそ女子めけど、實は堅し。触りたる者どものみ識りたる。この雄、名をあづまのたかし(東野貴士)と云ひたる。その生業、唄うたひなり。まだ雅氣のこす十代の日々、時に春をひさぎ身を賣りて過ごしたるも、やがておのが肉をば切り賣りする辛さを悟り、躰其物よりも寧ろ際立ちて粒立ちかがやきたる聲をばひさがんと志したる。たかしの聲、雄をば求めつ鳴きては艶あり、むなしき夜に善く響ひては独り身の者どもをば煩悶せしめれば、値出たり。或人、たかしをば誘ひては樂人に仕立て、テレビジオンなる物へと押し入れ、其像且其聲をば無数に複製反復せしむ。トたかし、愚劣なる者どもの藭に成りぬる。假象の舞臺に日夜立ちては、紅き焔の反照をば浴びつつうたひ、ちらと肉晒し、俗情をばそそりつ。女子どもも雄どもも、色狂ひしたれば、惜し氣なく金をも時をも費やす。たかし富みたり。まぼろしめきたるうちにて、まぼろしめきたるものどもをばひらめかせつ、時の人へと成り上がりたるゆゑ。然れども、斯様の幸ひにあれど、心むなし。而して、たれも居らぬ街路をさまよひたる。おのが肉の燃ゆるをもて余しつ、満つ事無き情をば棄てかねつ。

 ト其処に、不圖あらはれたるが、コカマのせい坊なり。せい坊、いまだ學生なれど、すでに學業投げうちたれば、雄から雄を渡り歩きて日々生活す。おのが勘のみ頼りたれば、そのおこなひ確信に充ち情熱に溢れ、恰も英雄時代の者なり。せい坊、アタシカンじるのと癖の如くに口走りたれば、理智的なる者は嘲れど、さだめをば生きんとす者どもは羨望す。と云ふは、斯くカンじる者きはめてすくなし。せい坊、カンじるままおこなひて、みづからをば多く傷つけたれど、一切をば喪はず、かへつてさだめをば得たり。さだめに生きたる者、恵まれずとも、幸ひなり。凍へる街の十字路の中央に二匹の若雄ら出逢ひて、一瞬眼差し絡みあひ、欲情の光きらめきて、二匹をば照らせば、相通じあふもの出來、此の出來たるもの二匹を包みて一にす。先づ口開きしはせい坊なり。

 ちよ待つて頂戴、兄ちやん、ちよと暇ある? アタシカンじるの、運命を。アンタカンじない?

 別に。カンじないけど。

 あれ、でも、行くとこ無いし、ついてつて好いでしよ?

 何で。

 何でて云つたつて、そんなの、分かる訳ないでしよ。でも、ついてく。決めたから。

 たく強引だな。困つたな。でもいいや。俺つちもぷらぷら為てたんだ。來るなら好いよ、ついて來て好いよ。

 二匹の若雄、氣息白めかしつ、通りを下りて、ヨリ賑めきたる処で出つ。たかし、己は富めれど、コイツ文無しならむとぞ思ひて、何か喰はせる事をば決める。たかし、斯く持ち掛けつ。

 外は寒いし、ちよと堪まらないんで、何処か暖かな処で何か喰はふよ。俺出してやるから。腹、空ひてるんだろ?

 うん、でも取り敢へずアンタを噛りたいなあ。好いかしら、それとももう、ヤつちやつたかな?
 
 せい坊の眼の黒が濡れてしとどにかがやき、黒はますます大きくなり、脱れ得ぬ孔に迄成りてたかしをば呑みこまんばかりなれば、たかし些か怯へたれど、色に出せねば、力めて平静を装ひ斯く云ふ。

 オマヘ、すぐそんな事云つたりして、オカシイんちやないの。まさか賣りの子ちやないんだらうね。

 トせい坊、目吊り上げて見せつ、

 馬鹿、違ふよ。面倒臭ひ手續とか嫌ひなだけなのに、ヒドひちやないの!

 何だよ、ちよと云つて見ただけちやんか。そんなに、ヒドひかな。

 ヒドひつたら。

 トせい坊停りて笑ふ。

 でも此処這入つて噛らせて呉れたら赦したげる、ちやなかつたら赦したげないよ!

 Little Prayersなる看板出たるラヴホテルで、薄汚れたる外壁が如何なる愛をも掘り崩さむ時の支配をば跡しつ、二匹、這入りて、個室へ向かふ。ト廊下にてせい坊が聲をば潜めつ謡ふに、斯くの如し。

 ♪ 寝臺を食卓に、
    アンタを噛りませふ!

 何て唄なの、とたかし問へば、せい坊、ブラツクアフリカ出身の唄ひ手のゼリイと云ふ曲なンだ、とこたへる。たかし、だるげにそのゼリイのルフランをば口ずさみつ、おのが昔の記憶を苦々しげに想起しつ。恰も影のやふに、振り払ふことすらかなはず、曳きずりゆくよりほか無い物をば畏れつつ。

 室に入れど、いまだ凍へるやふに寒ければ、取り敢へず暖房をば付けつつ入浴せむと云ひて合意したれば、並びて脱衣し、互ひの股間の物をば弾ひてみたりつまみたりしてたはむれつ、浴室に入る。裸身をば目の当たりにして、せい坊、小振の割に逞しきたかしの肉に驚き又魅せられたれば、さだめの呼び掛けをば聞きたるとのおもひ増したり。たかし、せい坊の肉の貧弱なるを予想してゐたれば、幻滅もせねど、食欲も湧かず。二匹、石鹸など用ひて互ひの穢れたる処をば清め、時に指挿し入れたり握りなどもしつ、洗ひ終へれば、身を槽に沈めたる。湯のうちにて、せい坊たかしに身を寄せ、首に腕廻し、耳に唇這はす。耳穴に尖れる舌挿し、利き腕は股間の肉握り、胸に胸合はせつ、たはぶれつ。其不器用とも云はれやふ愛をば享けつ、氣遣らぬやふにとそればかり努めつ、たかし回想へと溺れたり。稚き頃の悲哀、成長して識りたる初めての雄の味、無残なやふに成りぬる昔の夢、いはゆる成功ののちの心苛むやふな虚栄、それらの像が浮びては消へ、かがやきては復た闇へと融け、重なり合つたり分かれたりしつつ、子供等の悦ぶ遊具のやふに廻る廻る。たかし、恰もおのが生きたる歴史をば脱れ得るかの如く夢みれど、せい坊、乳首を嘗めつつきりりと歯立てたれば、果て無き想念も破れ、眼をば開けば、もう暖まりつ寝臺での樂しき食事、雄の時に苦く時に甘き味する果實の蛋白質の汁の放出をねだるせい坊の飢へたる顔が見へ、そろそろかな、など云ひて湯を出たり。

 ト寝臺に向かふ。調へられたれば、心地好し。二匹共毛布にくるむりて、互ひて顔と顔見合はせつ、しかと抱き合ふ。せい坊、烈しく唇を求めつ、胸に胸、腹に腹をば打ち合はせ擦り合はす。たかし、痛しとすらおぼゆるも、それをも快く、駆り立てられたるやふに強くせい坊の舌を吸ひたれば、せい坊なほ燃へて、引き抜かんばかりの勢いで竿をば握り締め、空きたる方の手ではたかしの手をば求めて固く結ぶ。たかし、暫し唇を吸い合ひ噛み合ふに没入したれど、不意にせい坊の股、竿をも玉をも共にがつとつかめば、せい坊、一瞬喘ぎ、頭のけ反らせ、死ぬるが如き振舞ひす。トたかし、攻め手に廻りて、いまだ熱さぬ若雄の柔らかな肉をば吸ひ、噛り、嘗めたりつねつたりしてほとんど半時間も費やす。其間、若雄堪へ切れずに一度二度氣遣つてシイツも肉も濡らせど赦されず、烈しき攻め、たかし自身の疲労の訪れで終はりし。せい坊の精水、即ちせい汁に塗れつ、肉ぬらめかせつ、鏡張りたる容器に閉じ込められたる蟇の如くヌルめきつ、二匹の若雄ども暫し優し氣に抱き合ふ。せい汁の苦くも愛に充ちたる闇ひ沼に沈み溺れ、疲労も今は孤獨をば癒し、せい坊のぱつくり開きつ肛門も又満足氣に呼吸しつ。たかし、其穴をば撫で摩りてたまに人差指中指など生温かき処に入れたりなどしつ、唇に唇を重ね、濡れた舌に舌を合はせ、絡むる肉と肉の悦びを幾重にも包みたり。時停れば永遠顕はるも、そは無理なれば、せめて壊れ易き心に、薄れ易き記憶に、深くおもひを刻まん。此瞬間忘れまじ、生命盡きん折も此おもひを懐ひて逝かん、など大仰なる感慨をばおぼゆるたかし、せい坊に屈し、さだめの在る事をば信ぜんと迄おもふ。狂へる者氣のたがへられたる者どもおが幸ひなれば、たれが其満足をば妨げん。其者等、地上をば離れ宇宙迄、而して其果つる処迄往くならむ。おもひ、大地の束縛をば脱れ宇宙の黒穴へと墜ちては、無限に迄成るかも。さればこそ、破局に愛燃ゆる事しばしばなり。

 トせい坊、たかしのうへに身を投げ、復たもとむる。頚をば一度きりりと噛りて、愛咬しつつ腕から胴へ更に腹へとくだり、まだ諸の粘液にしとどに濡れたる肉竿をばはくはく咥へてはしやぶる。濡れて萎えたる物、はじめ無反應なれど、やがて徐々に蘇りて、隆々とかがやく果實のやふに成りぬれば、しやぶり甲斐も出て來やふと云ふものちや。先づおのが液も彼が雫も、べとどに成りぬるをみな嘗め取りて、叢をば巻き込まぬやふ意を用ひつつ、くびれをばしとどの唇肉にて撫で擦り、堅く閉ぢたる穴をば尖れる舌にて圧し犯し、次ひで、祈るやふにすぽり喉肉に包み柔かに締めつける。時折、頭のくびれ近き処などに軽く歯を立ててみ、根つこの処にもさふしてみむとす。恰も此美事なる果實をばすつかり噛り取らんと試みたるやふなり。噛るなら噛れ、取るなら取つてしまへば好ひ。活きて躍る性肉をばまるごと頬張れ、溢るる闇き樹液をば浴びてみよ。此処で果つるなら好ひ、一度は満足をば嘗めたれば、成佛しやふ。たかし、時停れるをねがへど、叶はず。成佛も無理なり。然れども、無理をねがひもとむるが人ならむ。たかし、人、雄、若ものなり。悦び嘗めるに没したれば、法をば不知。やむなけれど、哀れむべし。無用の苦悶に永くあへぐは必定ならむ。せい坊の如き性なれば、苦をも満足をも存分に極めて悔ひ無けれど、斯様の人少なし。まよひ免れたるは稀なる幸ひにて、眞にさだめを恵まれたる者と云はるに値ひせむ。

 トせい坊主、不意にたかしに尻をば乞ふ。はじめ渋れど、熱心にねがへば、承知したる。けだものやふの格好して尻をば突き出しをり、せい坊、両の尻たぶをばこぢ開けつ、闇く深き穴ある処に鼻面埋めては烈しく巧みに尖らしたる舌先用ひつ掘りたつる。暫し妙におぼゆれど、やがてたへだへに成りて、おもはずあへぎなどしつ、時の環の解けたるが如き心地に肉をば震はす。せい坊、恰も狗なり。其舌、指先の如く器用にうごめき、悦びをば存分に引き出す。ト、鼻面を尻穴より上げつ、おのが竿をあてがひて、挿したれば、たかし、身ぷるぷるさせつ、おのが胞子をのこらず放ちたり。シイツ白や黄色の寒天やふで染められつ。せい坊もおのがいのちをば放ちたれば、おおひに満ち足り、穏かになりぬる。ト、見れば、時間なり。二匹、復たぢやれつつ湯あみし、連絡のしやふを取り決めて、かへる。通りに出るや、もう白々となりぬれば、光、若雄どもに注がるる。リイマン風の侍、不審さふに、若雄どもをば見やれど、若雄ども、おのが歓びの余韻に堂々としたれば、風格さえ具はりたる。世界の街路、無限へと開かれつ、各が方向にさだめあり。若雄ども、今は復た別べつのほうへとゆかねばならねど、投げられし処ではじけさへすれば、宇宙に迄達さむ。余、若雄どもの至福のみいのらむ。

をはり

題名 SEI is a little prayer
筆名 西田 鬼太郎
400字詰原稿用紙で約12枚
本名 攝津正 (22歳)
住所、電話番号 (略)